ファンドフレットの話

  ファンフレット、ファンドフレット、マルチフレット、Vフレット、扇状フレットなどと言われる世にも奇妙なギターをご存知だろうか。

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  ファン、つまり扇の様な形状に大体9フレット周辺を中心になっているのがファンフレットと呼ばれていて、この画像でいう右側が遠近法で遠くにあるわけではないのだ。

  こちらはmayones regiusと呼ばれている、ポーランドの会社のギターで、こちらの会社ではVフレットと言う名称を取っているが、上記の呼び名は基本的に構造は同じである。

 

  発端はNOVAXという会社がおそらく初めて製作し、特許を取得したので長い間この会社以外で使用されることは無かったが、最近特許期間が終わったのでチラホラ見られる様になってきた。

 

11/2016追記 最近コヤブボートの製作者小籔良隆氏とお知り合いになり、教えていただいたが、ファンドフレットの名称自体は使われていたかどうかは定かでは無いが、構造自体はバロック時代1600年代より存在していたそう。

 

  自分は上記のmayonesというポーランドの会社のファン(fanとfunがかかっている)で、ここの7弦と8弦のVフレットを採用したギターを所持している。しかし、楽器店員やそういったホームページや雑誌上で誤った理解をかなり散見できるので此処に正しい理解、弾き心地や構造の面でのメリットデメリットを記しておこうと思う。参考になれば幸いである。

 

  前提知識として、同じ太さの弦を同じ張力で引っ張った場合、音程はその距離に依存しているということは、ここまで記事を読んでいる方々ならば理解出来ていると思う。簡単な物理である。わからなければ、ベースはギターより長いのは低い音を出しやすくするためであるというのを想像すればいい。

 

  まずファンフレットでの弾きやすさ、play abilityについて。

 基本的にファンフレットだから弾きやくなるということはありえない。

  これに尽きる。弾きやすさに関してのメリットは、かなり特殊な場合を除いて、殆ど無い。たまに、『〜〜のギター弾きやすかった〜』などという女子高生の話を目にするが、それはファンフレットが弾きやすいのでは無く、そのギターが弾きやすいのである。

 

  新興宗教のようにstrandbergが流行っているが、例えばアノギターが弾きにくいと感じる人が多いのは、フレットがファンであるからでは無く、独特の台形的なendure-neck-profileによるものが大きい。アレのせいでファンフレットが弾きにくいと思う人が多いが、実際にはネックの問題がかなり大きく、ファンフレットでの弾きにくさとは比較にならない。

 

  特殊な場合を言うと、低フレットで人差し指で多くの弦を押さえる、例えばFのメジャーのようなコード""しか""使用しない場合、普通のフレットの場合は脇を開き気味でコードを押さえないといけないが、それよりかは脇を締めた状態でも指の角度が自然に6弦までアクセスできるので、利点と言えよう。

  しかし、後述するがファンフレットの1番の目的は低音弦のテンションの強さにあり、そもそもこのsystemが流行っている界隈は歪ませた音を使用しているので明瞭なchord voicingを必要としない、従って恩恵は受け辛いのだ。

  

  次に構造の話へ移ろう。

 

  multi-scaleと呼ぶこともあるファンフレット。multi-というprefixからも想像できるようにフレット長さが弦ごとに多数存在するのである。

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これは自身のmayones regius VF8であるが、低音弦側が高音弦側と比べて長くなっているのが判る。これには前述の通り、短ければ高い音を出しやすく、長ければ低い音が出しやすいというところからきている。

 

  普通のフレットのギターはおよそ25.5inchであるのに対し、弦が多い、又は極端なダウンチューニングを使用する場合にはスーパーストロングスケール、もしくはバリトンスケールと呼ばれる26.5、27、28、28.65、30inchもの、超長いギターが存在する。

 

  長いギターで対応出来るのならばそれで良いと思うかもしれない。全弦音を下げるのであれば、26.5inchに半音下げ、28.65inchに一音下げで25.5inchにレギュラーチューニングを張るのと同じテンションで弾くことができる。しかしながら、多弦ギターなど、高音弦側に関しては普通のチューニングを使いたい場合には、25.5インチの1弦に12ゲージとかでレギュラーEを張るようなものなので、パッツンパッツン、デブに網タイツになってしまうのだ。それは困るというので、そこで、ファンフレットなのである。

ここでいうテンションというのは張力を指す。押弦力と張力とを混同している人も多い。

8弦や7弦でレギュラーチューニングを使いたい、もしくは高音弦側ではレギュラーチューニング、7弦をドロップAチューニングやjakub zyteckiなんかが使っているレギュラー+Gなんかのチューニングや7弦までレギュラーのドロップEチューニングを使いたいというのであれば、ファンフレットは大いにオススメできる。

 

  ただ、色々な弦でテンションを模索している諸君にとってはただ、太い弦を張ればいいだけなのでは?と思うかもしれない。確かにそうである。しかしながら、太い弦を張るというのは、それはそれでデメリットが出てくるのだ。まず基本的に楽器店で60ゲージ以上のギター弦は調達できないし、好みのテンション感を求めているうちに90なんてのを張っているパイセンもいるが、太くすればするほど音がbass-lyになり、歪ませると音がboomyになる傾向がある。あの、bassを歪ませたようなバビブベボ的な音になる。

 

  しかしながら個人的には、mayonesのVF7も所持しているが、上はレギュラーチューニングを好んでいるのでドロップA程度であれば65あたりの太い弦を調達さえすれば、25.5inchで問題は無いように思う。なので、あくまで個人的にだが7弦にはファンフレットは必要ないと感じる。8弦で、高音弦側をレギュラーにしたいのであれば、ファンフレットは超オススメする。半音下げメシューガチューニングなどであるならば27インチで良い。

 

  実際の数値の話をしておこう。僕が所持している(た)ファンフレットのギターの数値を参考にしてほしい。

  1. 25.4-27 mayones VF8
  2. 25.4-27 mayones VF7
  3. 25.5-26.25 strandberg boden7

繰り返すが、上はレギュラーチューニングを好んでいるので、1弦側は25.5inch程度は譲れない。6弦ギターは今は所持していないが、6弦までは25.5インチに9-46(daddarioの黄色)でレギュラーチューニングのテンション感が1番好きで、ファンフレットであるならば、9-42(daddarioの紫)で9-46のテンションが得られるのでその点だけは、利点といえば利点なような気もする。

 

  しかし、VF8もVF7も25.4-27と弦が一本多いのにスケール差が同じで、持ち変えるとかなり角度を感じる。わがままを言えば

  1. 25.5-27 ibanez rgff7
  2. 25.5-27.2 ibanez rgff8

のように、7弦までは同じ角度にして欲しかったが、どちらもかなり気に入っているギターである。

 

  ファンフレット全てに言えるデメリットであるがファンフレットを弾き慣れたあと、ファンフレットでないギターを弾くと、まるで逆ファンフレットを弾いているかのような錯覚に陥る。この理由から、VF7も購めたのだ。金銭的には超デメリットである…

 

  持っても無いのに、ちょっと弾いただけで大口を叩く畜生がとても多い。

お金なんていらない。なんていうことはお金のある人にしか言えない。by juki

職業に貴賎なんてない。なんていうことは貴賎があるとは言われない職についている人しか言えない。by juki

というのと同様に、ファンフレットの一般的なレビューは一般的なネックの一般的なファンフレット(極端なファンフレットも存在する、23-27 8弦とかアホ(好き))を数種持っている希少な人にしか説得力のあるレビューは出来ないのである。

 

  楽器店員含めて頓珍漢なことを大っぴらに話してる人が余りにも多いので、面白いと思ったらツイッターなりなんなりでシェアーしてくれよな!おにいさんとの約束だぞ!